アプローチ

当研究室では、プロジェクトごとに複数の研究分野の手法を用いて課題解決に取り組んでいます。研究課題や使用技術について、研究分野との関わりから紹介します。

進化生物学

私たちが親と少し異なる個体であるように、生物も世代を重ねるごとに徐々に姿形を変えていきます。この時間の流れを拡大してみると、「原始のバクテリアが約40億年の時間をかけて人間やカエル、食虫植物に進化した」という説明になります。これは一つの正しい見方ですが、その進化を駆動するメカニズムや、重要な節目でのキーイベントについては、まだ多くの謎が残されています。私たちはこれらの謎の解明に努めています。

Carnivorous plant evolution

植物分子生物学

暑ければ涼しい場所へ、寒ければ温かい場所へ、お腹が空けば食べ物がたくさんある場所へと動物たちは移動します。しかし、植物には少し難しいことです。そのため、植物は自分のいる場所に合わせて、自分の体を変化させながら生き延びるほかありません。このような植物たちの生き方を研究しています。

核酸やタンパク質を取り扱う分子生物学は現代生物学の諸分野で基盤となっており、当研究室でも活用しています。植物を取り扱う場合、核酸精製時の二次代謝産物除去やアグロバクテリウムを利用した遺伝子導入など、植物細胞の特性を考慮した実験設計が必要になります。CRISPRを用いた遺伝子編集においても、アグロバクテリウムを用いるのが一般的です。食虫植物における遺伝子改変技術の開発も進めています。

Plant Molecular Biology

発生進化学

たとえば食虫植物の捕虫葉はとても複雑な構造をしていますが、どのような進化過程を経て獲得されたのでしょうか。完成品の形態から、普通の葉のどこがどう変わってそうなったのかを見極めるのは難しいことです。しかし、その複雑さは、器官の形作り、すなわち発生過程で徐々に付加されるものです。実際、発生の初期では、普通の葉と捕虫葉はシンプルかつ極めて似た形をしています。徐々に違いが現れていく様子を丹念に調べれば、捕虫葉形態の成立に重要だった進化イベントを推定できます。

Leaf Evo-Devo

植物生理学・電気生理学

外見以外の特徴も重要です。たとえば、食虫植物の消化能力や吸収機構を理解するには、物質輸送や代謝、あるいは植物ホルモンに関する知識が不可欠であり、これは植物生理学の範疇です。

そして、「電気」もしばしば重要な役割を果たします。生体電気について考える際、多くの人が筋肉や神経を思い浮かべることでしょう。しかし、植物もまた電気信号を活用しています。生体電気の実体は「膜電位」と呼ばれるもので、生体膜の内外に生じるイオンの組成の違いに由来した電位差を指します。それを検出する電気生理学的手法は、ハエトリソウのような動きを持つ植物の運動能力を解析するだけでなく、食虫植物一般にみられる消化吸収能力など、イオン輸送が重要な役割を果たす領域において威力を発揮します。福島自身にはこれらの手法を実践する経験がありませんが、経験豊富なメンバーがチームに加われば、実験設備の構築を進めたいと考えています。現在は、共同研究者と協力して必要な電気生理学的分析を行っています。

Stoma-to-stomach evolution

生化学・タンパク質工学

タンパク質は試験管内での合成と改変が比較的容易ですので、研究をうまくデザインすれば、生物進化に関して高い解像度の知見が得られます。これは、生化学・タンパク質工学の手法を用いることで実現できます。

Protein structure

合成生物学

「作って理解する」アプローチは科学の現場でも大変有用です。たとえば食虫植物の研究からその真髄に肉薄したとして、それが本当に確からしいかを確かめるために、その知見に基づいて普通の植物を食虫植物化してみるのもよいでしょう。シロイヌナズナをウツボカズラそっくりに作り変えるのはまだ現実的ではありませんが、たとえば食虫植物の遺伝子をひとつだけ付与して、シロイヌナズナが少しだけ食虫植物に似た栄養代謝を始めるだとか、食虫植物がもつような毛が生えてくるだとか、そのくらいなら現在の科学でも(依然として容易ではないにせよ)可能になりつつあります。タンパク質レベルで変異を導入して、食虫植物のタンパク質に特徴的な性質を付与するのならもっと現実的でしょう。祖先タンパク質を出発点にすれば、それが「進化の再現」になりますし、観測された変異を現実には生じなかった変異とくらべれば、現実には選ばれなかった進化経路についても知見が得られます。 多少大仰な言い方になりますが、これらは合成生物学に類するアプローチです。

Carnivorization

ゲノム生物学

ゲノムに刻まれた膨大な情報は、生物の由来や特徴を理解するための重要な手がかりとなります。全ゲノム配列を解読し、遺伝子の構造を予測し、その遺伝子がどのような機能を持つかを推測することは、ゲノムから生物学的な発見をするための重要な下準備です。PacBioやOxford Nanoporeのようなロングリードシークエンサーと染色体立体配座捕捉法(Hi-C法)を組み合わせることで、染色体スケールのゲノムアセンブリーを取得可能です。配列取得までは分子生物学実験が必要になり、その後は生命情報科学の手法が中心となります。

Genomics

生命情報科学

複雑な生命現象と対峙するとき、生命情報科学あるいはバイオインフォマティクスは非常に強力です。オミクス解析や比較ゲノムにおいて既存のツールを使いこなすだけでも十分強力ですが、当研究室では新手法の開発にも取り組んでいます。

Programming

分子系統学

分子系統学は生命情報科学のなかでも古典的な領域ですが、比較ゲノムの中核的なフレームワークとなります。生物間の系統関係を推定する分子系統解析法のほかに、当研究室では、遺伝子発現レベルや形質の進化過程を系統樹上で推定する系統種間比較法を常用しています。

Ornstein-Uhlenbeck models

統計学

現代の生物学分野では、統計学の知識が不可欠なスキルとなっています。当研究室では、日々の研究活動を通じて、統計学の基礎から応用、さらには論文での記述方法に至るまで、幅広い統計学的スキルを習得する機会を提供しています。

Genome-wide association study